| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-046

当年生シュートにおける形態と力学的強度の種間比較

*野村拓真(京大・農),長田典之(京大・フィールド研),北山兼弘(京大・農)

樹木の幹や枝は、光合成器官である葉を支えたり新たな空間を確保するための足場としての役割がある。幹や枝が力学的に弱いと折れたり曲がったりしやすく、樹木個体にとって不利になる。これまでの強度の研究では幹や一次枝に着目することが多く、力学的に最も弱い当年枝での研究は少ない。しかし、当年枝は光合成効率の高い当年葉をつけることや、翌年作るシュートの足場となることから、当年枝の力学的特性は重要な意味を持つ。

幹や枝にある基準以上の荷重がかかると、たわみを伴って破損する(座屈現象)。座屈を避けるためには、座屈安全率(実際の幹または枝直径/自重を支える上で理論上の幹または枝の最低直径:King and Loucks 1978)を大きくとる必要がある。さらに、座屈安全率は①形態(直径と長さ)、②材質(ヤング率と材密度)、③物質分配(葉、幹、枝重)、の要素の影響を受けるため、これらの相対的な影響度が重要である。

遷移初期種は後期種よりも枝の密度が低く、伸長成長速度が速いが、座屈安全率には有意な差がない(vanGelder et.al.2006など)。よって、初期種は後期種に比べて形態や物質分配を変える(具体的には、枝を太くする、枝を短くする、葉よりも枝への物質分配を増やす)ことによって低い材密度を補い、座屈安全率を高めている、という仮説を立てた。

本研究では、温帯広葉樹林に共存する落葉樹(遷移初期種)5種と常緑樹(遷移後期種)4種の当年枝について、形態・材質・物質分配を調べ、座屈安全率を算出した。

この結果、座屈安全率と材密度には種間差がみられたが、遷移系列による差はなかった。また、座屈安全率が似た種間でも、その要因として形態、材質、物質分配の相対的な影響が異なっていた。

これらの結果を基に、座屈安全率の差と座屈安全率に寄与する要因が種間で異なることの意義を考察する。


日本生態学会