| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-049

葉の蒸散メカニズム ―葉内の水の流れとガス交換―

*澤上航一郎, 舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)

陸上高等植物は光合成のために大気から二酸化炭素を取り込む際、蒸散として水蒸気を放出する。一般的に、蒸散速度を決定しているのは気孔開度であり、蒸発部位は孔辺細胞周辺のみと考えられ、葉内は湿度100%に保たれているというのも疑われていなかった。しかし、Nonami et al. (1991) のデータを考察すると、大気の湿度に伴い葉内の湿度も大きく変化していることが示唆される。また、表皮を剥離した葉の葉肉細胞表面は水滴を弾き、葉内の細胞もクチクラに覆われていることが示された。これは、葉内が乾燥することを支持する2つの間接的な証拠になると考えられる。つまり、乾燥から葉肉細胞を守るためにクチクラで覆っているのではないか、また、クチクラで覆われた細胞表面からは水蒸気が蒸発しにくくなり、葉内の湿度が低下しやすくなっているのではないかということである。本研究では、開口した気孔を持つ表皮の二酸化炭素供給能力および水蒸気保持能力を評価するため、表皮を剥離した葉とガス交換速度を比較した。無表皮葉の乾燥を防ぐため、測定の際にはチャンバー内の風速を変化させ、枯死しない程度の風速に調節した。また、葉肉細胞のどの部位から水蒸気が蒸発しているかを評価するため、葉に色素を吸わせ、葉肉細胞の染色の様子を観察した。ガス交換測定では、表皮の剥離により蒸散速度はおよそ2倍に上昇したが、光合成速度は変化しなかった。このことから、正常な葉は二酸化炭素については気孔からの供給で十分であり、同時に水の損失は抑えていることが示唆された。気孔開口時の蒸散速度を葉肉細胞からの蒸発が決定しているかについては、蒸散速度が上昇したため、表皮による拡散層の効果を再度評価する必要がある。


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