| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-061

南アルプス・キタダケソウ(Callianthemum hondoense)の生理生態的特性

*青島佑太,安部壮一,望月大輝,増沢武弘 (静岡大・理・生物)

日本列島の中央部には、静岡県、山梨県、長野県の3県にまたがる広大な山脈(南アルプス)が存在し、貴重な植物種や植物群落が数多く分布している。南アルプスの中でも、北部に位置し、日本第2位の高峰である北岳(3193m)には、多様な高山植物が生育し、キタダケソウやタカネマンテマなど、希少な植物種も多い。多くの高山植物や, 希少植物種が北岳に生育する要因の一つとしては、北岳山頂周辺に存在する石灰岩の影響が考えられる。しかし、北岳の石灰岩と植物の成長との関係を明らかにした研究はほとんどない。そこで本研究では、北岳の固有種であるキタダケソウに焦点をあて、生理生態学的側面からその特性を明らかにすることを試みた。

TTC試薬を用いてキタダケソウの種子に発芽能力があることを確認し, 発芽実験を行った。また、越冬芽を顕微鏡により観察し、次年度花序となる組織が形成されていることが明らかとなった。将来葉となるシュートが形成されており, そのシュートの数はもとのシュート数よりも多くなっていた。以上のことからキタダケソウの繁殖は越冬芽によるシュート数の増加が重要であることが示唆された。種子は発芽能力を有しているが、特殊な条件の組み合せにより発芽が促されるものと考えられた。

北岳の南東斜面にて土壌を採取し、pH及びCa, Mg濃度を測定した。pH測定の結果、キタダケソウが生育する所の土壌が、生育しない所の土壌よりもアルカリ性の値を示した。また、Ca濃度においてもキタダケソウが生育している立地において高い値を示した。土壌中のMg濃度は全体的に低い値を示した。また、植物体を採取し部位ごとのCa濃度を測定した結果、葉で最も高いCa値を示し、他の部位では大きな差が見られなかった。アルカリ性土壌に生育するキタダケソウは石灰岩地に生理学的に対応していることが示唆された。


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