| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-075
水ストレスにより木部内の水にかかる陰圧が増すと、道管の壁孔を通し、木部内の空隙や周囲の道管にある気体が、水で満たされている道管内へ気泡となって引き込まれる。この気泡が道管内で広がり、水のつながりを断ち切ると、水輸送が妨げられる(空洞現象)。植物種によってはこの現象が夏季の日中には日常的に起きており、こうした種では短時間で空洞現象を起こした道管へ水が再充填され、水輸送機能が回復されていることがわかっている。
木本において道管へ再充填される水は、空洞現象を起こした道管に隣接する組織から供給されると考えられている。また、空洞現象を起こした道管内の気体を再び水に置き換えるには、その気体を周りの水に溶解させる必要があり、これには道管内の気体の圧力を陽圧、つまり大気圧より大きくしなければならない。ところが、道管への水の再充填は木部が陰圧であっても起きることが確認されている。これは、隣接する道管や柔組織が陰圧下にありながらも、再充填中の道管内の気体には陽圧がかかるという、一見矛盾した状態を意味する。この矛盾を解決するには、陰圧下にある隣接した組織の影響を排除しなければならない。
現在、隣接した組織の陰圧の影響を排除するメカニズムとして、次の2つの仮説が立てられている。(1)道管同士をつなぐ壁孔に空気が入りこむことで、周囲の陰圧から切り離す。(2)隣接する柔細胞から再充填中の道管へ、壁孔を通れない高分子量の糖を排出する。これにより周囲よりも水ポテンシャルを下げ、機能している道管と再充填中の道管の液がつながっても、機能している道管側に水が引き込まれないようにする。
今回、この2つの仮説に関し、再充填の物理学的な素過程に基づいた数理モデルを組み立て、予測値を得る。また、実際に測定された木部張力、空洞現象への抵抗性、木部の形態を用いて再充填速度を計算し、予測値と実測値の比較から、どちらの仮説により一致するかを探る。