| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-079

熱帯樹木のガス交換特性の鉛直プロファイルと吸水源・光環境の関係

*春田岳彦,松尾奈緒子(三重大,生資),高梨聡(森林総研,気象),小杉緑子(京大,農)

半島マレーシアの熱帯フタバガキ林(パソ森林保護区)において、様々な樹種、樹高の樹木13個体を対象として葉の有機物の炭素・酸素安定同位体比の鉛直分布を測定し、水ストレスが熱帯樹木の葉のガス交換特性に与える影響を考察した。大気CO2と葉の炭素安定同位体比の差(13ΔOM)から長期平均的な水利用効率を、葉と茎内水の酸素安定同位体比の差(18ΔOM)から長期平均的な気孔コンダクタンス(gs)を推定した。また、葉面積当たりの乾燥重量(LMA)の鉛直分布も測定した。さらに、地表から地下4mまで深度別に採取した土壌水と茎内水の酸素安定同位体比を照合し、各個体の吸水源を推定した。また、温度、湿度、光合成有効光量子束密度(PPFD)の鉛直分布を高さ52mのタワーで観測した。

対象個体全体においても各個体内においても13ΔOMと高さ、13ΔOMとLMAには負の相関があった。樹高が30、23、20mである3個体の葉の13ΔOMは同程度であったが、これらの葉のLMAは類似していた。既往研究によりLMAが葉の受光量の指標として利用可能であると報告されている。実際に、葉のLMAとその高さにおけるPPFDは正の相関(r=0.8865)を示した。以上の結果から、葉の水利用効率は主に光環境によって決まっていると考えられた。しかしながら、LMAが同程度である葉を比較すると樹高の高い樹木の葉の方が13ΔOMが低い傾向があった。このことは、水ストレスのような他の要因も水利用効率に影響を与えていた可能性を示唆している。

有機物の酸素安定同位体比と温度、湿度の鉛直分布からFarquhar and Lloyd (1993)のモデルを用いて算定したgsは、樹高が30m以上である2個体においては上層の葉ほど低いことが示された。このことは、高木は吸水が困難であるため蒸散を抑えている可能性を示唆している。


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