| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-082
これまで樹木フェノロジーに関する研究は主に適湿な山地を中心に行われており、大量の水が常に存在しているダム湖周辺では行われていない。本研究では、調査地を広島県山県郡安芸太田町加計地区に建設された温井ダムのダム湖を中心に上流・ダム湖周辺・下流、また対照地を広島市の内陸部の広島県立緑化センターに設定し、ダム湖がその周辺樹木の樹木フェノロジーに与える影響とその要因を考察した。
本研究は、期間中に展葉・落葉し年間の生長量を計測することができ、また調査地周辺に分布する落葉広葉樹の普通種を対象として行った。資料は全10種合計235個体から採取した。このうちケヤキは標本が少なかったので参考として扱う。
春、秋の胸高直径及び樹高の季節変化量の比較すると絶対値ではダム湖周辺が胸高直径、樹高ともに最も成長していた。また、先駆樹種、ブナ科の二次林種、途中相の種の調査地別変化量はダム湖周辺及び下流域ではブナ科が胸高直径、樹高とも最も成長していることを示しているのに対し、上流域及び緑化センターでは最も成長量が少ないという結果になった。また、温度・相対湿度の観測の結果、ダム湖周辺が最も気温の日較差が少なくかつ相対湿度日較差が比較的大きいことが分かった。このことからダム湖周辺の気候は気温は高くないが、海洋的気候を示すと考えられる。
この傾向はダム湖水が生み出す温暖湿潤な気象環境が関係していると考えられる。この環境が、温帯二次林のブナ科樹種の生育を促し、一方で温暖湿潤環境ではなかった、つまりダム湖の影響を受けなかった場所(上流域・緑化センター)では、予測通り、先駆樹種が優先して生長したと考えられた。