| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-106

くじゅう黒岳地域における1500年前以降の植生景観とヒゴタイの分布

*佐々木尚子(地球研), 河野樹一郎(西日本技術開発(株)), 高原 光(京都府大)

中部九州のくじゅう地域は,中岳を中心とする九重火山群と,その裾野に広がる草原が特徴的な景観を形成している。これらの草原は,ヒゴタイをはじめとする草原性希少植物の生育地として注目されている。九重火山群の北東部に位置する黒岳には,くじゅう地域でも数少ない原生的な森林が残されている一方,その東麓や北麓には,クヌギやコナラの二次林や半自然草原が広がっている。この地域の植生と火事の歴史を明らかにするため,黒岳西側の凹地(ソババッケ;標高1097m)の堆積物について,放射性炭素年代測定ならびに微粒炭・花粉分析を実施した。

ヒラー型ボーラーで採取した深度675cmまでの堆積物は,一部に赤褐色のスコリアを含む泥炭で,放射性炭素年代を測定した結果,深度650cmで約1500年前,深度170cmで約1000年前という値が得られた。微粒炭分析は篩別法により,直径125µm以上の微粒炭について計数した。深度170cm以深で多くの微粒炭が検出され,とくに深度170cmから430cmの間に複数のピークがみられた。花粉分析では,深度640cmから130cmまでは,イネ科花粉が40%以上(高木花粉総数を基数とする)出現し,これにコナラ亜属,クマシデ属などの落葉広葉樹や,マツ属複維管束亜属をともなう花粉組成が得られた。またヒゴタイ属花粉が深度130cm(13世紀頃)の層準で複数検出された。現在ソババッケ周辺にはヒゴタイは生育していないが,少なくとも中世の一時期には分布していたことが示された。深度130cm以浅の層準では,微粒炭量が急減し,イネ科花粉が減少する一方,ニレ属/ケヤキ属やカエデ属,スギ花粉が増加した。この変化は,近年,野焼きがおこなわれなくなったために草原が減少していることや,スギの造林が進められたことを反映している。


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