| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-112
捕食者の餌利用形質や被食者の被食防御形質の進化は、食物網の安定性(共存種数)に影響を与えうる。これらの進化が捕食—被食相互作用の強さやパターンを変化させるためだ。捕食—被食相互作用が進化するとき、食物網の安定性に重要な影響を与えることが予想されるメカニズムとして、メタ群集における移動分散がある。捕食—被食系あるいは競争系、少数種の食物網モデルでは、中程度の移動分散率のときに、系の安定化あるいは多種共存が促進されることが示されている。これは、移動分散の生態学的効果(レスキュー効果と空間の均質化)と進化的効果(遺伝的レスキュー効果や不適応な変異の移入による競争関係の変化など)に因る。複雑な間接効果があるとされる多種の食物網においては、移動分散は食物網の安定性にどのような影響を与えるのだろうか。本研究では、メタ群集における移動分散が、植物と植食者が共進化する食物網の安定性(局所群集内の種数)に与える影響について、個体ベースシミュレーションによって調べた。また、移動分散の食物網の安定性への進化的効果を生態学的効果から分離するために、遺伝子流動を含む通常の移動分散のほか、遺伝子流動を含まない個体の移出入のみの移動分散を想定したシミュレーションも行った。その結果、植物、植食者の移動分散率が中程度のときに食物網の安定性は最大となった。また、個体の移出入を除いた遺伝子流動のみの効果により、低移動分散率では少数種において適応進化が促進され、競争排除が引き起こされることで食物網が不安定化した。一方で、高移動分散率では、多種において同じような進化が起こることで、あるいは進化が妨げられることにより、食物網が安定化した。本研究により、メタ群集における移動分散・遺伝子流動は、食物網の安定性に重要な影響を与えることが明らかとなった。