| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-126
ヤブツバキ葉上に定着するリティズマ科菌類は、リグニンを分解して落葉を漂白化させることが知られている。本科菌類は落葉上に肉眼観察可能な子実体を形成するため、各種の分布を定量的に評価することが出来る。演者らはこの特徴に着目し、国内における地理的スケールでの分布調査を進めてきた。その結果、国内には少なくとも2属3種のリティズマ科菌類が分布し、それらの種が占有する漂白面積には地域間で相違がみられることが明らかになった。この相違は各種の生活史特性の違いにより生じていると考え、本研究では、分布種が異なる2調査地で本科菌類の落葉上における成長過程を明らかにした。千葉県松戸市の浅間神社と館山市の那古寺の自然林にリタートラップを設置し、2010年6月から12月までヤブツバキ落葉を月毎に回収した。落葉は回収後直ちに50枚ずつ林床に設置し、落葉表面に生じる本科菌類のコロニーの成長を月毎に観察、記録した。各葉上における成長は、漂白と子実体の発達に基づき5段階で評価した。調査の結果、松戸は C. sinensis のみ、館山では C. sinensis、Coccomyces sp.、Lophodermium sp. の3種が確認された。館山では、Coccomyces sp. は7月から10月まで子実体を形成し、6月から8月に子実体を生じる C. sinensis と Lophodermium sp. の2種と比較して遅いことが分かった。また、松戸では C. sinensis は6月から10月まで子実体を形成し、館山の同種に比較して子実体形成時期が長期に及ぶという傾向がみられた。これらの成長過程にみられる相違は、胞子分散の時期が異なることを示唆しており、樹上の生葉における定着に影響を及ぼすと考えられる。今後は、生葉上における胞子の定着過程を明らかにしたい。