| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-144

泥炭地湿原における人為撹乱後の植生回復パターンの特定:地下水要因が与えるスケール依存的効果

*西村愛子(中央農研),露崎史朗(北大・環境科学)

ミズゴケ類が優占する泥炭湿原は、北半球に広く分布し、特異な生物相を有した貴重な生態系の一つである.しかし、その面積は、人為撹乱により大きく減少しており、近年、湿原生態系の復元が世界的に試みられつつある.撹乱前後の物理的・化学的環境の劇的な変化と、環境要因間の時間・空間スケールを介した相互作用のために、復元手法には多くの問題点が指摘されている.そこで本研究では、北海道サロベツ湿原泥炭採掘地において、クロノシークエンス法と永久調査区法を用い時間的変化と空間的変化を考慮しつつ植物群集回復パターンを調査した.合わせて、湿原環境において群集構造の規定要因となる地下水の群集発達への影響を明らかにすることを目的に調査を行った.

ミカヅキグサの侵入により採掘跡地の植物群集発達は始まるが、ミカヅキグサは採掘から25年程度で減少傾向となる.それと同時にヌマガヤ・ヨシの優占度が高いヌマガヤ・ヨシ群集へ推移することが多かった.しかし、泥炭採掘跡地上の多くの群集は、不安定であり、ミズゴケ群集へ向かう傾向は認められなかった.採掘地へのミズゴケ侵入は、地下水位の高い地域に限られ、一方、ヌマガヤ・ヨシ群集の発達は、平均地下水位よりも水位変動により強く規定されていた.未採掘地と採掘地における群集構造の相違は、第一にpHや窒素のような化学的要因に規定され、ついで水位が関与することが示された.これらのことは、採掘跡地へのミズゴケ侵入には、水位が直接的に関与するが、未採掘地にみられるようなミズゴケ群集を形成するには、化学的要因がより重要となることを示唆している.以上の結果から、局所スケールと地域スケールでの群集発達の規定要因が異なること、さらに、それらの規定要因間のスケール依存関係を示すことができた.


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