| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-157
近年、農地において、鳥類をはじめ多くの生物で種数や個体数の減少が報告されており、生物の種数や個体数を維持するために環境の時空間的異質性と保全・管理のあり方に注目が集まっている。環境の時空間的異質性は、環境要素間での時間的な餌生物量のずれを生じさせることにより、年間を通して得られる餌生物量を安定させるため、捕食者個体群を維持するうえで重要であることが、捕食者の利益を調べることで示されている。しかし、このような研究の多くは自然景観を対象としており、農地ではまだ限られている。
本研究では、⑴農事暦による水田景観の季節変化は、アマサギの餌生物に影響を与えるか⑵アマサギの田面での主な餌生物であるオタマジャクシと畦での主な餌生物であるバッタの生物量は、異なる季節変化をするのか⑶その餌生物量の季節的なずれは、アマサギの採食行動を安定させているかを明らかにすることを目的とした。調査は、5月から9月にかけて、茨城県霞ヶ浦南岸の水田地帯(東西約10 km、南北約400 m)で行い、農事暦による変化として水田の注水量の季節変化、田面と畦の主な餌生物としてオタマジャクシとバッタの生物量の季節変化を調査した。そして、それらの変化がアマサギの採食に与える影響を明らかにするために、アマサギの採食速度と採食環境の調査をおこなった。
調査の結果から、田面のオタマジャクシの生物量と畦のバッタの生物量は、時間的に異なる変化をすることがわかった。そして、その変化に合わせて、アマサギは田面から畦へ採食環境を変化させることにより、採食速度を大きく低下させることなく、繁殖期間中に水田景観内で採食をおこなうことが可能になっていた。このことから、水田の時空間的な異質性は、アマサギの利用できる餌生物量を安定化させる働きをし、アマサギの採食個体数を維持するうえで重要であると考えられる。