| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-165
近年ツキノワグマの人里への出没が問題となっているが、原因の一つとして、食物資源量との関係が指摘されている。先行研究では食物資源の中でも特に秋のブナ科堅果類が注目されており、堅果類の豊凶と出没数に相関があることや堅果類の不作の年にクマの土地利用様式が変わることなどが明らかになっている。しかし、一般的に堅果類を採食すると考えられる時期よりも以前に出没が発生するなど、堅果類を採食する時期より前の食物資源もクマの出没を引き起こす行動に影響している可能性が考えられる。そこで、本研究では夏から秋にかけてのクマの採食行動と単位時間あたりの移動距離の関係を調べた。
2008,2009年の7月から11月にかけて、10日に一度の頻度で一定のルート(標高700~1600m、総延長約7キロ)を踏査し、その両側10m以内にあるクマによる採食痕跡を記録した。採食痕跡としては、フン、クマ棚、爪痕などを記録した。また移動距離は、クマにGPS首輪を装着し2時間間隔で測位されたデータから、2時間あたりの移動距離を推定した(2008:n=4、2009:n=7)。
2008年は晩夏にウワミズザクラ、初秋にミズナラ、晩秋にコナラ、2009年は初夏にカスミザクラ、晩夏に動物質、秋全期でミズナラの痕跡が多く発見され、これらが各時期のクマの主要な採食物であると考えられた。主要な採食物が移り変わる時期には採食品目数が増加した。2時間あたりの移動距離は、2008年は非線形の変動を示したが、2009年は異なったパターンを示した。このような季節的、経年的な移動パターンの違いは、利用する食物資源の分布様式や、一つのパッチの大きさが異なることから引き起こされている可能性が考えられる。