| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-167
寄生蜂における寄主探索行動には多くの研究があるが,その中でも,「地上と地中」という隔てられた環境間で探索を行う種についての研究は少ない。これらの種にとって,地中は,視覚的•化学的手がかりが利用しづらい事,移動に大きなコストがかかる事などから探索が困難であり,寄主探索には,地上からの探索開始地点決定が重要であると考えられる。しかし,地上から地中の寄主の居場所をどのように探索しているのかについては,ほとんど分かっていない。私たちは,非営巣性であり,コガネムシ類を寄主とするツチバチを用いて,雌がどのようにして地中への探索開始地点を決定しているのかを調べた。野外において雌バチが同一地点に繰り返し飛来する,という予備的な観察から,寄主発見場所に対する学習実験とマークリキャプチャー調査を行ったところ,雌が寄主探索の際に一度寄主を発見した特定の場所を学習する事,そして,この特定の場所に強い固執性を持ち,離れた場所からでも繰り返しこの場所に帰還する事,が明らかになった。膜翅目における特定位置への帰還行動は,主に営巣習性を持つ種で多く知られているが,今回,探索困難な寄主に対する採餌戦略としての利用が示唆された。非営巣性の種における,特定位置への帰還行動を用いた採餌戦略は,現在までにあまり知られていない。この行動は,地上からの寄主情報獲得が困難である事,エネルギー補給のため,地上と地中を行き来しなければならない事,寄主のコガネムシ幼虫が集中分布している事,などの理由から進化したと考えられる。本発表では,この行動について紹介するとともに,これを考慮した応用的利用への展望について考察する。