| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-168
ツキノワグマ(Ursus thibetanus)は餌資源の量や分布に応答し食性や行動を変える.特に秋期は,越冬・出産のために栄養価が高い堅果類を飽食し,堅果類の不作年は豊作年と比較してクマの行動圏が広くなるといわれている.秋期のクマの行動特性は,管理計画を設定する知見も与えてくれる.そこではどのスケールの行動や植生のデータを扱うかを考慮する必要がある.例えばクマがパッチ状に広がる優占種でない餌資源を利用していると,スケールの荒い大雑把な情報から空間利用を正確に把握することは難しい.そこで本研究では,クマの環境利用を評価するスケールの検討行った.岐阜県大野郡白川村において2009,2010年にクマの痕跡による食性調査,GPS受信機付き首輪を用いた行動調査,GPSから得られた利用場所についての地形図並びに現地における植生調査を行い,スケールを変えて植生と行動を比較した.野上ら(2009)と調査中の観察から,2009年のブナ,ミズナラは共に豊作であった.GPS軌跡の得られた2頭のオス成獣は1カ月間で120kmを越す広い行動圏を持っていた.2009年秋期の食性の95%はミズナラ種子に依存していた.1/25000図で見ると滞在場所はブナ林が圧倒的に多かった.しかし毎木調査によるメートル単位の小スケールで見るとブナ林,ミズナラ林,針広混交林が識別でき,滞在場所は移動場所と比較してミズナラ林が多いという違いが検出できた.つまり,堅果類豊作年において行動圏は予測に反して広かった.しかしメートル単位のスケールで見ることでクマは広域に広がるミズナラ資源を求めて滞在していることが分かり,これは食性を反映していた.