| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-198

サンカクハゼの繁殖生態と砂かけ行動パターン

*坪井美由紀,坂井陽一,橋本博明(広島大・院・生物圏)

ハゼ科魚類は一般的に体サイズが小さく、遊泳能力が低いため、魚食性魚類に補食される危険性が高い。また、多くのハゼ科魚類は、オスが孵化まで単独で卵保護を行う。そのため、ハゼ科魚類の産卵場所は、岩の隙間や石の下、サンゴの隙間等の目立たない場所であることが多い。ただし、産卵に最適とされる場所は限られており、同種間のみならず異種間でも産卵場所を巡る競争が頻発していると考えられる。

しかしながら、ハゼ科サンカクハゼは、砂地の砂を払って岩を露出させ、そこで堂々と産卵・卵保護を行うことが明らかとなった。本種の産卵場所は、他種との競争は回避できるものの、産卵・卵保護時の捕食リスクが高くなると考えられる。本研究では、本種がこのような目立つ場所で、どのように産卵・卵保護を行っているのかを調査した。

本種の繁殖システムは、複数のメスがオスの産卵床を訪れて産卵する、なわばり訪問型複婚であった。メスは産卵前日の夕方に産卵床を訪問してオスからの求愛を受け、翌日の日の出前から産卵を開始した。この産卵前訪問は、捕食リスクの低い時間帯から速やかに産卵を開始できるよう、事前にメスがオスの状態を確認しているものと示唆された。

また、繁殖期間中、オスは尾鰭を激しく振るわせて砂を巻き上げる「砂かけ行動」を頻繁に行っていた。この砂かけ行動は、①産卵床、②他種、③本種メスに対して行われていた。卵保護期における砂かけ行動は、①卵を砂で覆い隠す、②卵捕食者に砂をかける目的があると示唆された。また、非卵保護期における砂かけ行動は、①産卵床となる岩を露出させる、②侵入者に砂をかける、③メスを誘引する目的があると示唆された。つまり、この砂かけ行動には、卵防衛、排斥、営巣、求愛の4パターンがあることが明らかとなった。本種はこの砂かけ行動を駆使することによって、目立つ場所でも卵保護を行うことが可能となっていると考えられる。


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