| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-210

大きいことは良いことか-ニホンザルにおける体サイズと消化率の関係-

*澤田晶子(京都大・霊長研), 坂口英(岡山大・農), 半谷吾郎(京都大・霊長研)

一般的に、草食動物では体重と摂取した食物が排泄されるまでの時間 (食物通過時間) には正の相関がみられると言われている。また、食物通過時間が長くなるということは食物が消化管内で消化作用を受ける時間も長くなることを意味し、結果として体の大きな動物ほど高い消化能力を持つと考えられる。しかし、霊長類では体重と食物通過時間および消化能力の関連性はほとんどみられず、これは霊長類の食性が非常に多様性に富んでいることが関係しているとされる。霊長類の食性は、昆虫食、果実食、葉食の3つに大きく分けられ、それぞれ異なる消化システムを有する。食性や消化システムの違いが食物通過時間や消化能力に影響を及ぼすだろうことは容易に推測でき、たとえ種間で差がみられてもそれが本当に体重の違いによるものなのかどうか不明確である。そこで本研究では、体重以外の要因を排除するため、飼育下のニホンザル(Macaca fuscata; N=14; 体重2.6 -16.6kg) を対象に種内比較を行った。結果、(1) 体重の大きい個体ほど食物通過時間が長くなること、(2) 体重や食物通過時間に関係なく消化能力はほぼ一定であることがわかった。これは、霊長類において、消化能力は体重よりも食性や消化システムといった他の要因の影響を強く受ける可能性を示唆するものである。さらに、「体の大きな動物ほど粗食に耐え得る」という考えの根拠のひとつとして、体の大きな動物は消化能力が高いという点が挙げられてきたが、本研究の結果は、大きな個体は必ずしも小さな個体よりも消化能力が高いわけではないことを示唆するものであった。


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