| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-218
真社会性昆虫であるシロアリは、ふつう一夫一妻で創巣するが、ヤマトシロアリは単為生殖能を持ち、2匹の雌の有翅虫が協力して創巣することができる。また、ニンフ(有翅虫への分化途中の個体)とワーカー(翅芽を持たない個体)への分化には、遺伝子および環境による影響があることが確かめられており、単為生殖卵は全てニンフに発生するが、生殖虫の存在下では、一部の個体がワーカーに分化することが知られている。その詳細な機構は未だ不明であるが、2女王の単為生殖に由来するコロニーを用いれば、遺伝的なカースト決定に対する環境の効果を観察できると考えられる。そこで本研究は、同巣と異巣の有翅虫ペアによる単為生殖コロニーを用いて、子のカースト運命に与える女王の影響を明らかにすることを目的として、以下の実験を行った。
まず、経時的にコロニー組成を調査した。その結果、同巣・異巣ペア共に創巣後6ヶ月目から、一方の女王が死亡したコロニーが見られた。15ヶ月目には、そのようなコロニーの割合が増し、一部のコロニーでは、ニンフ型二次生殖虫も出現していた。次に、マイクロサテライト遺伝子座を用いて、女王と子の遺伝子型を解析した。その結果、創巣後15ヶ月目に、各女王と同じ遺伝子型を持つニンフの個体数に有意差(X2検定, P<0.05)があるコロニーが存在した(同巣ペア7/10コロニー、異巣ペア1/9コロニー)。しかし、ニンフの個体数に有意差が見られた全てのコロニーで、ワーカーの個体数には有意差がなかった。以上の結果から、創巣後15ヶ月頃までに、同巣の2女王に由来するコロニーでは、ニンフの生産数に偏りが生じることが示された。同巣の2女王は、二次生殖虫に分化しうるニンフ生産を協力的に行っていることが示唆される。