| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-220

ヤマトシロアリ創設メスの母巣の違いがニンフ生産に与える影響

*滋田友恒, 北出理(茨城大・理)

ヤマトシロアリReticulitermes speratusは、1-2齢の幼虫期間を経た後、3齢でニンフかワーカーのいずれかのカストに分化する。ニンフは有翅虫への分化能を持つ。Hayashi et al. (2007)は、本種のニンフ・ワーカーの決定に、X染色体上の1遺伝子座が強い効果を及ぼすことを明らかにした。本種は、単為生殖能を持つが、単為生殖で生まれた子は、この遺伝子座が、「ニンフ遺伝子型」であり、生殖虫から隔離して飼育すると、全個体が雌ニンフに分化する。

「ニンフ遺伝子型」の子を生殖虫と共に飼育した場合、一部の子はワーカーに分化するが、ワーカーに分化する子の割合は、母巣(親を得た野外コロニー)によって異なる。これは、生殖虫由来の外的要因(おそらくフェロモン)がワーカー分化を誘導し、このワーカー分化誘導に対する子の感受性が、副次的な遺伝子の影響を受けるためと考えられる。

本研究は、ワーカー分化誘導に対する遺伝的影響を調べるために、多数の野外コロニーから雌有翅虫を取り出し、同じコロニー由来の雌有翅虫2個体に、初期コロニーを創設させ、単為生殖で子を生産させた。創設から120日後、各カストの個体数をコロニーごとに調べた。各初期コロニーを、分化したニンフの有無で区分したところ、ニンフが分化したコロニーの割合(ニンフが分化したコロニー数/総コロニー数)は、生殖虫の母巣により有意に異なった。一方、子の個体数は、分化したニンフの有無に、有意な影響を与えなかった。これは、遺伝的要因が各コロニーのニンフの有無に影響したことを示唆する。また、ニンフが分化したコロニーの頻度と母巣の有翅生殖虫の性比(メス率)には、正の相関が見られた。


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