| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-254

樹皮剥ぎを用いた樹液食甲虫の誘引~昆虫採集に向けた森づくりの手法開発~

*美齊津裕太,山本貴紀,上野徹,島田尚樹,小林紀博,天田圭助,高橋一秋(長野大,環境ツーリズム)

森林の多様な生態系サービスの中でも、カブトムシやクワガタムシ等の大型甲虫を対象とした昆虫採集は特に子供からの関心が高く、地域社会にとって重要な文化的サービスの一つとなる。本研究では昆虫採集が楽しめる森林の管理手法として「樹皮剥ぎ」(意図的な樹液のしみ出し手法)を提案するとともに、①樹液量と甲虫の個体数・種数との関係、②樹木の特徴と樹液量との関係、③幹を削る高さが樹液量と甲虫の種組成に与える影響、④甲虫が出現する時間帯と種組成を明らかにすることを目的とした。

2010年7月、長野大学の所有林に30m×40mの調査プロットを設置し、その中のクヌギ成木40個体を対象に樹皮剥ぎ(縦1cm×横10cm×深さ2cm)を地上から0.9m, 2.7mの2箇所に施し、形成層の表層を寸断した。その後、8月にかけて樹皮剥ぎ部に誘引された甲虫の個体数・種数を記録し、しみ出す樹液をペーパータオルを用いて計測した。同年12月に調査木のDBH、樹高、樹冠面積、形状比、樹冠長比を計測し、樹液量、甲虫の個体数・種数との相関を解析した。

甲虫の個体数・種数と樹液量の間には高い相関が認められた(r=0.79, p<0.0001)。重回帰分析の結果、樹液量は樹冠長比と弱い相関を示した(β=0.36, p<0.05)。樹液量は幹の低い場所で有意に高かったが、甲虫の個体数・種数は高さによる影響は見られなかった。甲虫の種組成は高さによって異なり、カブトムシは高所、クワガタムシは低所でのみ観察された。甲虫の個体数・種数は朝・昼・晩の時間帯によって異なり、カナブン・ハナムグリは朝・昼に、カブトムシ・クワガタムシは夜に集中して出現した。

昆虫採集を目的とした管理手法には樹冠長比の高いクヌギ成木の樹皮剥ぎが効果的であることが示唆された。また、種の選好性の結果を基に、個々の採集プランが設計できる。


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