| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-255

イノシシによる水稲被害のレベルに影響を与える景観要因及び被害レベルが決まる空間スケールの特定

*久保達也,高田まゆら(帯畜大),鈴木 牧(東大演習林),落合啓二(千葉県博),浅田正彦(生物多様性センター),宮下 直(東大院農)

千葉県房総半島では、イノシシによる農作物被害の深刻化が問題となっている。その一方で、狩猟者の減少・高齢化により野生動物捕獲の担い手が不足していることから、効率的な被害管理法の確立が急務であると考えられる。野生動物の農業被害の程度は農地周辺の景観構造から影響を受けることが知られていることから、被害が生じやすい景観構造の特徴を明らかにすることで、対象地域の景観情報から優先的に管理すべき場所を特定することが可能になると考えられる。そこで本研究では、千葉県房総半島のイノシシによる水稲被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにすることを目的とした。

調査は2006年4月下旬から6月上旬にイノシシの生息が確認されている地域内の稲作農家宅約600件を訪問し、水田の位置や被害レベルなどを尋ねた。またGISを用いて、調査水田を中心に様々なサイズのバッファを発生させ、各バッファ内に含まれる森林率、竹林率、人工建造物率をそれぞれ算出した。統計解析には、被害レベルを目的変数とした一般化線形モデルを用いて、AICを基準としたモデル選択を行った。各バッファサイズにおいて同様のモデル選択を行い、バッファ間でベストモデルのAICを比較した。

バッファ間でAICを比較した結果、半径500mの空間スケールが被害レベルを最もよく説明することが明らかとなった。この空間スケールは、テレメトリー調査から示されているイノシシの行動圏と大きく異ならなかった。ベストモデルに含まれた説明変数の回帰係数から被害レベルは、森林率及び竹林率が高いほど増加し、人工建造物率が高いほど減少することが示された。被害は好適な餌場があることで増加し、人間活動が多いであろう人工建造物周辺では減少する傾向がみられた。


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