| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-259

自然公園利用者のヒグマ遭遇に対するリスク認識の違い

*久保雄広(北大・農),庄子康(北大・農)

リスク認識は人の行動や態度に影響を与えることが多くの研究で示されている。クマと人との軋轢、特に自然公園におけるクマとの遭遇事故は人側の行動や態度に大きく起因することから、利用者がクマとの遭遇事故に対してどのようなリスク認識をもっているのか、調べる必要が生じている。

本研究ではヒグマとの遭遇リスクに対する利用者のリスク認識を聴取し、選択型実験(潜在クラスモデル)にその結果を組み込み分析することで、自然公園における利用者の意思決定を明らかにすることを目的とする。

調査は2009年9月に大雪山国立公園沼巡りコースで実施した。登山者1,536名にアンケート票を配布し、後日郵送によって970名から返答を得た。ヒグマとの遭遇に対するリスク認識の結果を選択型実験に適用することで、利用者は2つのグループに分けることができた。一方のグループはヒグマ遭遇リスクを深刻なものであると認識しており、できる限りヒグマに遭いたくないとするグループA、もう一方のグループはヒグマとの遭遇は回避可能であり、状況によってはヒグマに遭っても構わないというグループBであった。登山行動として、Aはヒグマの出没の可能性を考慮し、コース途中での引き返しを望んでいたが、Bはできる限りコース一周を望んでいた。また両グループは、実弾を持ったハンターの巡視には反対であったが、Bは追い払い用のゴム弾を持ったハンターの巡視には賛成であった。このことから、Aはヒグマに遭いそうならば登山を取りやめる傾向にあり、Bは何とか登山を果たしたいという行動選択の違いが伺える。

このように、リスク認識の違いは、ヒグマとの遭遇リスクが存在する自然公園での利用者の意思決定にも影響を与えることが明らかになった。そのため、管理者は一律な対応ではなく、利用者のリスク認識を考慮した情報提供やゾーニングといった管理を考える必要性があることが示唆された。


日本生態学会