| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-263
野生動物の個体群管理を行う上で、その個体数を正確に推定することは重要である。個体数推定法の1つである除去法は、野生動物の捕獲数をもとに個体数を推定する。除去法は、推定対象となる個体群が閉鎖系であることを仮定する。この仮定により、開放系に対する除去法の適用は制限される。その一方、閉鎖系の仮定を必要としない開放個体群モデルを用いた個体数推定も行われている。
伊豆諸島の新島では現在、ニホンジカの罠捕獲による個体群管理が行われている。そこで本研究では、開放個体群モデルを用い、新島に生息するニホンジカ個体数の推定を行った。新島のニホンジカ生息可能域(19.6 km2)には、罠が設置されている地域と設置されていない地域がある。そこで、推定に際しては、ニホンジカ生息可能域を罠有効範囲(15.5 km2)と罠無効範囲(4.1 km2)の2地域に分けた。この2地域の生息密度分布を把握するため、糞粒を密度指標として用いた生息密度分布調査を行った。推定に用いた個体群モデルは、捕獲期間中の個体の死亡や、罠有効範囲と罠無効範囲の2地域間の移出入を考慮している。罠捕獲数のデータは、2009年6月から2010年5月までのものを使用した。これらのモデルとデータから、2010年5月時点の島全体のニホンジカ個体数、罠有効範囲と罠無効範囲の間の移動率、捕獲率の3つのパラメータを推定した。
推定の結果、2010年5月のニホンジカ全個体数は288頭、移動率は0.217/月、捕獲率は0.104/月だと推定された。本研究で用いた方法では、狩猟や罠捕獲といった、通常の個体群管理活動から得られるデータに基づき個体数の推定が可能である。そのため、個体群管理のための個体数推定法として、その有用性は高いと期待できる。また、開放個体群モデルの利用により、除去法を開放系に適用することも可能であることが分かった。