| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-265
シカが森林植生に与える影響について多くの研究がなされてきたが、そのほとんどはシカ排除柵を用いて柵内外の両極端のみを比較したものであるため、シカ増加過程における影響の変遷については未だ不明な点が多い。また人による森林利用も森林植生の多様性や種組成を改変するため、シカによる影響を考える際に森林利用の影響を合わせて考慮する必要があるが、森林利用形態の違いがシカ―植生関係に与える影響はほとんど議論されていない。屋久島には、無撹乱の自然林から人工林まで様々な利用形態をもつ森林が各地に広がっており、また島内に生息するシカの密度が地域によって大きく異なっているため、利用形態の異なる各森林で、シカ密度増加過程における植生への影響を把握し比較することが可能である。そこで屋久島各地の低地林で調査を行い、シカ密度増加が林床植生の種数、被度、種組成に与える影響を調べるとともに、森林タイプ(自然林、二次林、人工林)による違いを調査した。
自然林において植物種数は単純に減少するのではなく、約20頭/km2のシカ密度で最大となっていた。各植物種の優占度の変動パタンは嗜好性や各植物種の特性によって異なっており、種ごとに異なる優占度の変化の総和として中程度のシカ密度において植物種数が最大となったのだと考えられた。一方で二次林や人工林では植物種数は単調減少していた。二次林では全体的に被度が低く、また人工林では被度は高いもののその大半は特定のシダ植物によるものであった。そのため人による森林管理によっても植物種の出現が負の影響を受けており、結果的に本来の種数のピークが出現しなかったのだと考えられた。以上のようにシカ密度増加が森林植生に与える影響は単純な負の効果のみではなく、またその効果は人による森林利用の形態によって変化しうると考えられた。