| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-272
本研究では、風倒木処理がエゾシカの採食に与える影響と、採食による植生回復への影響(植被率、群落高、カテゴリごとの出現種数(高木類、低木類、草本、その他))を明らかにすることを目的とした。大規模な風倒が発生したトドマツ人工林において、倒木を放置した「放置区」、倒木を除去した「除去区」、倒木除去に伴い発生したCWD(枝や根株など)を集めた「CWD区」の三つの処理間で、エゾシカの採食圧を比較した。すべての処理区で出現していたエゾイチゴを対象に、食痕数と植物量を調べ、植物量あたりの食痕数を採食圧とした。また、それぞれの処理についてシカ排除フェンスを作成し、採食による植生への影響を調べた。植生調査は2009年と2010年の二回行い、一年間の変化をフェンス内外で比較した。エゾシカの採食圧は放置区で最も低く、次いでCWD区、除去区の順であり、エゾシカが倒木のある場所を避けることが確かめられた。また、倒木の置き方が採食に影響することが示唆された。採食による植生への影響は、除去区の草本種数に正の影響、CWD区の群落高と草本種数に負の影響がみられた。除去区のフェンス外で草本種数の増加が大きかった理由としては、繁茂していたエゾイチゴが採食され、地表付近の光が増加したことによる間接的な影響と、フンや体毛による種子散布が考えられた。CWD区のフェンス外で群落高の増加が少なかったのは、CWD区にはノリウツギやタラノキなどエゾシカの好む低木類が多く、それらがフェンス外で採食を受けたためだと考えられた。CWD区のフェンス外で草本種数の増加が少ない理由はわからなかった。結論としては、倒木を広く残すことによりエゾシカの採食が減少することが確かめられた一方、採食による植生への影響は、倒木だけでなく植生の構造や構成が関係することが示された。