| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S05-3
有限の餌資源を複数個体が採餌する時、競争が発生する。競争下では自ら労働投資して餌を得る生産者producersと、他者が見つけた餌を横取りする寄生者scroungersの二つの戦術がありうる。二つの戦術を利潤率に対応して頻度依存的に採用することが有効である、と社会採餌の生態学は示唆する。現実の動物はどのように振る舞うだろうか。我々は家畜化されたニワトリの、それも雛を用いて一連の実験心理学的解析を進めてきた。雛は直近の利潤率に対応して意思決定を行うこと、利潤率(餌のエネルギー利得eを処理時間の総和hで割った商、e/h)の正確な予期を行う能力を備えていることなど、一連の知見を得た。ここではさらに競争下の意思決定に踏み込んだ研究を紹介する。
利潤率が同じでも「すぐに得られる小さい餌」(SS)と「待って得られる大きな餌」(LL)とがある。ヒトの理解を規範とする心理学では、SS>LLの選好性を衝動的選択と呼び、非合理的=非適応的な行為特性とみなしてきた。(ADHDなどいくつかの問題行動は、亢進した選択衝動性を特徴とする。)しかし、生態学の枠組みから見れば、衝動的選択はごくごく適応的なものである。producersはscroungersより常に餌に近く位置するから、scroungersを背後に持つ採餌者はSSにより高い効用を与えるべきである。実際、競争は衝動性を高めた。まったく同じ理由でscroungersはより近いproducersを襲うべきである。実際、競争は採餌者の運動を同期させ、移動運動および消費に費やす投資量を高めた。このように衝動性や社会的促通は、いずれも盗み寄生(scramble kleptoparasitism)の文脈で統一的に理解できる。この講演ではさらに、意思決定に関する神経科学上の諸問題を生態学を通じて理解するために、何が有効であるか、議論したい。