| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S07-1
琵琶湖は世界有数の古代湖であり、生物多様性の豊かさでも知られています。一方で、琵琶湖流域は古代から人間活動によって大きな改変を受けてきた流域でもあります。琵琶湖では、まわりに広がる水田稲作地帯から、しろかき作業時の泥を含んだ農業排水が流入する「農業濁水問題」が1980年代に顕在化しました。農業濁水は面源負荷のひとつであり、点源負荷の対策で効果的な法的規制や下水処理だけでは解決が難しく、流域を単位とした流域管理が不可欠となります。しかし流域管理を行う上では、流域の多様な利害関係者間の問題意識の違いが、さまざまな対立の原因となります。実際、琵琶湖から農村に目を転じると、そこでは農家の高齢化・後継者不足、農業や農村の将来への不安が地域社会の差し迫った問題となっています。つまり、琵琶湖の環境を保全する上では、注意深い水管理によって農業濁水を削減する必要があるのですが、地域の農村では営農上の深刻な課題を抱え、それが濁水を削減する上で大きな制約となっているという現実があるのです。
総合地球環境学研究所のプロジェクト(「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」)では、(1)理工学的な環境診断(安定同位体手法など)と社会科学的な調査(聞き取り・アンケートなど)の連携によって、農業濁水問題の琵琶湖流域への影響だけでなく、問題の至近的および歴史的な駆動要因の連鎖を明らかにしました。その上で、(2)農村におけるワークショップ手法の開発を通じて環境配慮行動の解明に取り組みました。特に、どのような情報が水管理に対する農家の意識を高めるかを調査した結果、琵琶湖への影響に関する科学的な情報とともに、住民が関心を寄せる地域固有の問題の大切さがわかりました。濁水の影響への科学的理解を促すだけでなく、地域社会が抱える農業経営や農村の将来といった地域の抱える問題との接点をつくる対話が必要なのです。