| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S08-2
第四紀には,それ以前の新第三紀の温暖な時代とは異なり,大陸氷床が拡大する寒冷な氷期とそれが縮小する温暖な間氷期を約10万年の周期で繰り返すようになった。この氷期・間氷期変動において,特に,氷期には厳しい寒冷気候が支配し,海水準低下による大陸との陸橋形成が起こった。このような寒冷化に伴い,新第三紀の温暖な気候下に生育していた植物が,第四紀にかけての4つの時期に段階的に絶滅し,170万年前頃には,ヒメバラモミ,チョウセンゴヨウなどの冷温帯,亜寒帯性植物の種類が増加,50万年前には,現在の日本列島の森林の主要構成種がすべて出そろった(百原,2010)。氷床の拡大が起こったヨーロッパと異なり,東アジアでは,植物の移動が可能であり,特に大陸と陸続きとなった日本列島では,北方系植物群の南下が起こり,さらに,沿岸域は海洋性気候により,氷期でも湿潤さが保たれ比較的穏和であったため,暖温帯性植物の逃避地として機能していたと考えられる。現在に最も近い約2万年前の最終氷期最盛期(LGM)の植生配置は,日本列島の現植生の成立過程を議論する上で欠かせない情報である。これまで那須(1980)やTsukada(1984,1985)等によりLGM植生図が発表されてきたが,総合地球環境学研究所「列島プロジェクト」古生態・生物地理の研究グループは,近年集積されてきた植物分布についての直接的な花粉化石や植物遺体データ,さらに,主要な樹種の遺伝的多様性に関してのDNAの分子情報に基づいて, LGMの植生について検討してきた。その結果,LGMにおいても,現在分布している植物は,大きく南北に移動したのではなく,各地域で小規模な集団として分布していたと考えられた。後氷期については,火事が植生形成に大きく関連していた。このような LGMの植生と後氷期における植生形成過程について報告する。