| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S13-4
人類が引き起こす土地利用変化や気候変動、種の移入などによって、しばしば生物は全く新しい環境での生息を余儀なくされる。この新しい環境下で生物がどのように振舞うのかを理解することは、人類による環境改変が生物多様性に与える影響を予測するためには欠かせない。
近年、環境変動への生物の応答を理解するための枠組みとして、進化的視点の有効性が注目されている。Niche conservatismとは、種のニッチやそれに関する性質が経時的に維持される傾向のことを示すが、本講演ではこのような進化的視点が生物の時空間動態を理解する際に有効であることを、次の二点に注目して紹介する。
まず初めに、生物のニッチに関する性質がどれだけ系統的関係を有しているのかを明らかにすることで、変動環境下における生物の時空間動態を、進化的観点から一般化することができると考えられる。演者らのこれまでの研究によって、近年の日本における鳥類群集の分布縮小・個体数減少を説明する様々な生態的特性が明らかになってきたが、このうち、営巣場所や生息地としての農地への依存度などの特性は系統学的シグナルを示していることが明らかになった。
次に、環境改変に対する生物の応答予測には、ニッチ変化が起こる程度の種間差異を理解することが欠かせない。例えば、気候変動が分布域変化に及ぼす影響を予測している多くの研究では、種のニッチが変化しないことを前提としているが、実際には新たな条件下でニッチが変化する種も知られている。ここでは演者らが研究を行っている英国の植物群集に注目し、温暖化に伴う開花時期の早期化と分布域の北進程度に大きな種差があること、そしてその種差が開花時期の気温に対する反応強度の種差によって説明される可能性について紹介する。
上記で紹介した結果について機構的理解を深めるためには、生物のニッチに関する性質の進化的基盤について明らかにすることが必要である。