| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S16-1
生物多様性地域戦略(地域戦略)とは、地方自治体ごとに策定される地域の生物多様性の保全、管理、および自然資源を活用するため実施計画であり、ここに生態学の研究者が果たす役割は極めて大きい。生物、生態系の保全にあたっては、地域の特異性、固有性が重要であることから、地方自治体、および地域における保全活動の重要性は、条約の締結当初から認識されていた。2007年に地方自治体が参加する初めての都市と生物多様性に関する会議において、「生物多様性の保全には、地方自治体の行動が中心的な役割を果たす必要があり、都市の生物多様性保全への参画が必要である」とのクリチバ宣言が採択された。さらに、2008年のCOP9では、「都市及び地方自治体の参画促進」が採択され、地方自治体が果たす役割が明確になった。これらの国際的な動向の中で、我が国では、2008年に生物多様性基本法が制定され、その第13条第1項において、地域戦略の策定が努力義務化されている。地域戦略は、言わば、自然社会条件に合致した生物多様性保全や持続可能な利用を行うための現場での実施計画であると捉えられる。地域戦略の策定は、地域の特性を踏まえた現場での実際的な保全計画をつくることであり、これにより地域に根付いた保全活動が誘発されることが期待される。さらに、全国の自治体が多様な目標を持った戦略を策定、運用することで、マクロスケールにおける地域の多様性も創出されると考えられる。地域戦略は、既に10程度の自治体で策定され、多数の自治体が策定している途中にある。この地域戦略の策定や運用を効果的かつ効率的に行うために、専門知識技術を持った生態学の研究者が、地域の社会経済的な状況を考慮に入れ、行政機関の役割との整合性を図りつつ、関わっていくことが期待されている。