| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S16-6
1993年のリオの地球サミットでは、生物多様性保全条約と同時に「森林原則声明」が採択された。この声明に沿って、世界では「持続可能な森林経営」をキーワードに、持続可能性の指標・基準づくりや、森林のモニタリング、森林認証の取得等の取組が行なわれてきた。欧米先進国ではこれらの動きに対して積極的に取り組み、着実に成果が上がっているのに対して、日本では林業採算性の急激な悪化や、森林吸収源対策への過度の依存等により、これらの取組は必ずしも十分に行なわれてこなかった。
そんな中、民主党政権の意向で、農林水産省は2009年末「森林・林業再生プラン」を発表し、現在、日本の森林・林業は大きな転換期を迎えている。同プランは、小規模分散の林地の団地化や路網整備、機械化の推進などにより、2020年での木材自給率50%以上を目標としている。地域レベルでは、市町村レベル及び数10~数100ha程度の規模での森林経営や路網整備のための計画が、ボトムアップ型でそれぞれ策定される。生物多様性を含む公益的機能の保全は、その計画の中で担保されることになっている。したがって、地域レベルでの生物多様性保全についての科学的知見に対するニーズが飛躍的に高まるとともに、研究者を始めとした専門家の参画が期待されている。
他方、再生プランは、林業のコスト削減を重点課題としているが、日本林業の経済・社会的条件を考えると、グローバルなコスト競争に打ち勝つことは現実的ではない。したがって、農業・地域政策との複合化や、生物多様性保全機能の環境価値の顕在化等の手法を駆使して、森林及び地域の経営を支えていく仕組みが必要である。ただしその際は、すでに欧州の農業で行なわれているように、「クロスコンプライアンス」と呼ばれる、環境保全の定量的な評価が社会的に要求されるようになるだろう。