| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T10-2

社会と生態学の接点に身を置く博物館のシンクタンク機能-人と自然の博物館の事例-

橋本佳延(兵庫県立人と自然の博物館)

人と自然の博物館(ひとはく)では、組織としてシンクタンクに関する中期目標を自主的に定め、研究員が生物多様性保全のシンクタンク活動に積極的に関わることを推奨している。

社会が生物多様性保全のシンクタンクに求める主な要素として、(1)科学的根拠に基づいた客観的な対応、(2)高い専門性を備え、課題とその解決策に関してわかりやすく伝えること、(3)狭い分野に偏らない分野横断的対応、の3つが挙げられる。これらの要素は、自然史系博物館の基本的な機能である、(1)自然・環境情報を集積すること(資料収集、調査)、(2)それらの情報を正しく理解し(研究による自己研鑽)、社会にわかりやすく還元する(普及教育)こと、(3)学問的縦割りに固執しない活動を展開すること(博物学の展開)、と対応している。

博物館がシンクタンクを行うことの社会的効用として強調すべきことは、生物多様性戦略などの計画立案・提言にとどまらず、現場をもち具体的に行動できる点にある。また、シンクタンク支援を必要としている市民・団体に最も近い場所におり、日常的に継続してシンクタンク活動を行っている点にある。

このように博物館は、既存の組織の中では社会が要請する生物多様性保全のシンクタンク活動を効果的に実践できる最適な組織といえる。しかし期待される機能を発揮するには、地方博物館が直面する現実は厳しい。国内の生物多様性保全を効果的に進めるためにも、各地の博物館のインフラ・ソフト・人材の充実が必須と訴えたい。

※なお、上に紹介した中期目標の達成状況を下記のURLおよび館報で公表しているので参照されたい。http://www.nat-museum.sanda.hyogo.jp/top/pdf/past5&future.pdf


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