| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-05 (Oral presentation)

植生タイプの違いはモンゴル草原の埋土種子相にどう影響するか?

*小田祥三,衣笠利彦,西嶋遥(鳥取大学・農)

モンゴルでは、近年車両の増加にともなって草原に未舗装道路が多く形成され、砂嵐や黄砂の原因となっている。今後、舗装道路の普及にともない未舗装道路の放棄が増加すると考えられるが、道路放棄後の草原植生の回復に関する知見は限られている。車両の通行は土壌を削り多年草の根茎も破壊するため、道路放棄後の植生回復は主に埋土種子集団に依存する。演者らのこれまでの研究で、モンゴルの一年草が優占する退行草原ではChenopodium属の種子が大量に存在し、植生回復に寄与することが示唆された。このことは多年草が優占する典型草原では、一年草の種子による植生回復があまり期待できない可能性を示している。そこで本研究では、モンゴルの一年草草原と多年草草原における埋土種子相を調べ、これら2タイプの草原における未舗装道路放棄後の植生回復可能性を評価する。

集落に近く放牧圧の高い一年草草原と約50km離れた放牧圧の低い多年草草原で植生調査を行い、草原と道路のわだち掘れにおける埋土種子を土壌の深さごとに計測した。

一年草草原ではChenopodium属一年草、多年草草原ではArtemisia属多年草が優占していた。道路のわだち掘れにはほとんど植生が見られなかった。土壌体積あたりの埋土種子量は2つの草原でほぼ同じであった。どちらの草原でも埋土種子は堆積砂中に多く存在し、そのほとんどがChenopodium属一年草の種子であった。堆積砂の量は一年草草原で多かったため、堆積砂に含まれる種子量は一年草草原の方が多かった。以上から、調査を行った2つの草原では、地上部植生は異なるものの埋土種子の種構成はほぼ同じであり、どちらの草原でも未舗装道路放棄後はChenopodium属一年草を通した植生回復が進むことが示唆された。種子を含む堆積砂の多い一年草草原の方が、植生回復は急速に進むと考えられる。


日本生態学会