| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-07 (Oral presentation)

釧路湿原での広域湛水実験跡地の植生回復と埋土種子の役割

*冨士田裕子(北大・FSC・植物園),川角法子(愛知県豊田加茂農林水産事務所)

釧路湿原では、ハンノキ林の急激な増加やヨシ-スゲ群落の減少に対し、北海道開発局釧路開発建設部が新釧路川の右岸堤防上に位置する雪裡樋門を2000年9月から2003年5月まで閉め、堤防西側の安原川流域の地下水位を上昇させ湿原植生を制御する実験をおこなった。湛水面積は200haにものぼり、ヨシ-スゲ主体の草本群落が広がる川筋を中心とした低標高部分が湛水した。樋門を開けた当年(2003)と翌年(2004)は、タウコギ、エゾノタウコギ、アキノウナギツカミ、ミソソバ、ヤナギタデなどが優占する流水辺一年生草本植物群落が成立した。2005年になると、イワノガリヤス、ツルスゲ、ツルアブラガヤ、オニナルコスゲ、ヤラメスゲなどの多年生草本が増加し始め、2006年には2004年に優占していた一年生草本類は激減した。その後は、スゲ属やイネ科の植物を中心とした群落が安定して継続している。

雪裡樋門開放後、発芽してきた植物の由来は、埋土種子と水や風で運ばれた種子や植物片が考えられる。そこで、湛水実験地の原植生と類似植生の大島川と新釧路川の周辺で深さ10㎝までの泥炭層内の埋土種子組成を調べた。さらに新釧路川周辺で、24cm ×30㎝×深さ15㎝の泥炭のブロック10個をランダムに掘りとり、湛水実験期間と同様の期間、深さ約60㎝の水中に沈め、2009年5月に取り出して発芽してくる植物の観察を行った。

泥炭中の埋土種子検出実験により、合計50種が確認され、未同定種を除くとすべて調査地近辺の地上植生構成種であった。また、水に沈めていた泥炭ブロックからは、スゲ属やイネ科を中心に、エゾイヌゴマ、アキノウナギツカミ、ホソバノヨツバムグラなど湛水実験跡地に出現した植物が多数発芽してきた。以上から、2年9カ月にもおよぶ湛水状況によっても、枯死せずに生き残る埋土種子が多数存在することが明らかになった。


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