| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-08 (Oral presentation)

水田跡地に再生した湧水湿地に生育する孤立木の木本類の侵入・定着に与える影響

*肥後睦輝,福田悦子,矢澤芳恵,澤野 圭(岐阜大・地域)

東海地方には湧水に涵養される湧水湿地に湿原植生が成立する。湧水湿地の中には、かつて水田として耕作された後に放棄され、湿原植生が再生した二次湿地が見られる。本研究では、このような二次湿地における植生変化の過程を明らかにすることを目的として、木本植物の種子落下、実生の発生・生存に着目し湿地の森林化の過程を分析した。

調査は、岐阜県土岐市の北畑池湿地(面積約20ha)内の1960年頃まで水田として利用されていた二次湿地で行った。二次湿地はヌマガヤなどの草本が優占する部分(以下、ローン)とかつての畦上に木本が生育する部分(以下、孤立木樹冠下)に区分できる。ローン、孤立木樹冠下、さらに二次湿地に隣接する二次林に、それぞれ12ヶ所、12ヶ所、そして11ヶ所の調査区を設定した。各調査区ではシードトラップ(開口部面積0.26m2)、実生調査区(1m2)を設置し、木本類の種子落下量、当年生実生発生数・生存数の調査を2004年から2008年にかけて行った。

落下種子の個数、種数ともに、林内、孤立木樹冠下がローンよりも多かった。また、孤立木樹冠下、ローンは林内に比べて鳥により散布された可能性のある果肉無し種子の個数が多かった。当年生実生の発生本数は孤立木樹冠下が最多で、ついで林内、ローンの順に多かった。当年生実生の種数は、林内、孤立木樹冠下に比べてローンで少なかった。当年生実生の生存率は高い順にローン、孤立木樹冠下、林内であった。生存率の違いには、ローンがミズゴケ、孤立木樹冠下がリターという地表面の状態が影響していると考えられた。以上の結果から、孤立木は、種子の落下を促進させ、さらにその樹冠下は実生の発生、生存に適した環境であり、湧水湿地における木本類の多様性維持と遷移の促進に重要な役割を果たしていることが明らかになった。


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