| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) A1-09 (Oral presentation)
近年一部の自治体による耕作放棄地の樹林化の試みも始まり、耕作放棄地の森林植生への遷移に関する知見の重要性が高まっている。本発表では関東東部に広く分布するアズマネザサが優占した耕作放棄地を対象に、在来樹木実生の定着阻害要因の一つとして動物による採食に着目した野外操作試験結果について報告する。
茨城県つくば市の16年間放棄されたアズマネザサ優占圃場において、在来樹木に対する採食影響を解明するため播種試験とビデオトラップによる動物相の観察を行った。試験樹種には生理特性や種子サイズ、散布者の異なる種としてアカマツ、エノキ、ムクノキ、シラカシを用いた。処理要因として、植生刈取、採食防止網、土壌消毒に着目し試験区配置を行った。播種当年9月までの観察の結果、ギャップ区において最も顕著な動物影響を受けた種はムクノキであり、対象樹種間で選択的採食の影響が示された。最終調査時の生残実生群集に対する処理要因の影響をAdonis解析により検証した結果、刈取(P = 0.002)および網処理(P = 0.003)が有意に実生群集組成を変化させていた。播種前の土壌消毒処理は有意ではなかった(P = 0.665)。
2011年4月28日から2011年9月1日の間実施したビデオトラップの結果、ササ被覆区ではシラカシ種子の野ネズミによる持ち出しやササの稈を足場として移動する様子が確認された。刈取区では野ネズミはほとんど観察されず、主にタヌキ、コジュケイ、ノウサギが観察された。またコジュケイ、野ウサギは刈取区内で頻繁に採食行動が観察された。これら結果および先行実施した播種・植栽試験の結果を考慮すると、堅果類を中心にアズマネザサ被覆下で樹木実生の定着を阻害する主要な動物は野ネズミであり、ササ刈取区では野ネズミ以外の動物相による選択的採食が樹木定着過程に影響すると考えられる。