| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) A2-13 (Oral presentation)
多雪山地のオオシラビソ疎林では林床が密なチシマザサで被われているが、オオシラビソの林冠下にはササを欠く部分がみられる。このような疎林におけるオオシラビソの更新過程について、空間的に不均質な林冠およびササ林床の林内環境との関係に着目して解析し、林冠下ササ欠如部分と林冠外ササ密生部分のそれぞれが果たす役割について考察した。オオシラビソ林冠の占める面積比率は49%で、林床の大部分は高さ2m程度の密なチシマザサに被われていたが、ササを欠く部分が34%あり、そのうち29%は林冠下に集中した。林冠下ササ欠に定着したオオシラビソ稚樹の本数割合は面積割合よりも有意に高く、林冠外ササ密では有意に低かった。林冠下ササ欠では稚樹がL字型のサイズ分布を示し、林冠木が枯損すると速やかに次世代の林冠木に移行すると想定される。以上のことから、林冠下ササ欠は重要な更新ハビタットであり、林冠木が次世代のために好適な更新ハビタットを形成し提供しているという意味でユニークな更新過程であると考えられる。しかし、林床の光環境は林冠下ササ欠と林冠外ササ密の間に差がなく、融雪直後のササ当年葉展開前にはむしろ林冠外ササ密のほうが好条件であった。種子・実生期の死亡率は、発芽時を除けは両者で差がなく、稚樹期の死亡率にもちがいはなかった。林冠下ササ欠への稚樹の集中をもたらすメカニズムとして、種子落下が林冠下に集中すること、実生の定着を阻害するササリターの提供を抑制する効果が重要であると考えられる。一方、林冠外ササ密においても、稚樹がL字型のサイズ分布を示し、林冠下ササ欠に劣らない成長を示していることから、更新ハビタットとして機能しており、ササの一斉開花枯死が起こらなくても更新の可能性があると考えられる。