| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) B1-01 (Oral presentation)
本研究では多年生草本ハクサンハタザオを対象に、異なる温度環境に対する開花時期調節メカニズムを、温度操作実験、開花遺伝子発現量の時系列データ解析、および数理モデルにより明らかにすることを目的とする。
北海道と兵庫個体群から採取した植物体を対象に、複数の開花遺伝子の発現パターンを異なる温度制御条件(5, 10, 20?C)で約1年間モニタリングした結果、北海道と兵庫個体群の間には春化経路の主要因子であるFLOWERING LOCUS C (FLC)と花成ホルモンをコードするFLOWERING LOCUS T (FT)の温度応答に顕著な相違があることがわかった。特に、低温になるほどFT発現タイミングが遅れ、そのことは開花時期の遅延と強い相関を持つことが示された。兵庫個体群はどの温度条件においても、北海道個体群より遅く開花し、5℃条件では6週間以上の開花遅延が観察された。このことは、FT発現量ピークの遅延によって非常に良く説明できる。これらの結果は、FT発現量が開花時期を操作する重要因子であること、FTの温度応答にはFLC以外の未知の因子が関わっていることを示唆する。
FLC、 FT、および日長応答で主要な役割を果たすCONSTANS(CO)の挙動を微分方程式モデルによって記述し、室内実験で得られたデータより推定された温度応答関数をあてはめることから、自然条件における開花時期予測を行った。種子数で評価される生涯繁殖成功度を最大にする日長応答関数も同時に予測した結果、兵庫個体群は北海道個体群より1時間程度長い限界日長に応答することが予測された。また、同じ温度環境であれば兵庫個体群の開花時期は北海道個体群と同様であるが、開花終了時期が顕著に早まるという予測を得た。以上の理論的予測を相互移植実験によって確かめる試みを紹介する。