| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-02 (Oral presentation)

白神山地高倉森におけるハウチワカエデ集団の遺伝的構造と父性繁殖特性

*成田真智子(弘前大・農), 鳥丸猛(弘前大・農)

遺伝子流動は、集団が保有する遺伝的変異の程度とその空間分布(遺伝的構造)を決定し、進化の可能性に影響を与える重要な要素である。固着性である植物では遺伝子流動は主に花粉と種子の散布時に生じている。そのため植物集団の維持機構を明らかにする上で、種子・花粉の散布と実生定着までの過程を解明することは極めて重要であると考えられる。現在では多型性の極めて高い遺伝マーカーを利用して個体の遺伝子型を決定することで、個体間の血縁度、花粉散布パターン、繁殖成功度などの遺伝子流動に関するパラメーターを高精度に推定することが可能になっている。そこで、本研究では落葉亜高木種であるハウチワカエデ集団を対象に近縁種で既に開発されているマイクロサテライトマーカーを用いて樹木集団内の遺伝的構造と父性繁殖貢献度を評価することを目的とした。2009年に青森県高倉森に1.4haの固定調査区を設置して、成木(胸高直径5cm以上の幹)の毎木調査を実施した結果、358本のハウチワカエデが生育していた。次にそれらの遺伝子型を決定した結果、調査区内には243個のジェネットが存在し、20m以内のラメートおよびジェネット間の血縁度が有意に高くなり、遺伝的構造の存在が示唆された。さらに、2010年と2011年にハウチワカエデの成木から種子を採取し、父性解析を行った結果、2010年と2011年の自殖率は1.4%と9.5%、移入率は43.3%と31.9%、集団内の他殖花粉の散布距離は2.8m~130.5mと0.8m~110.3mであった。指数関数を用いた回帰分析の結果、母樹は近くに生育する成木とより頻繁に交配している傾向が示された。更に本報告では父性繁殖貢献度に影響を与える繁殖量・個体サイズ等の生態的要因との関連性を解析し、ハウチワカエデの繁殖特性を明らかにする予定である。


日本生態学会