| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-19 (Oral presentation)

ウトナイ湖北西岸における高茎湿生草原の分布を規定する水文化学条件の解明

*金井紀暁(札幌市立大・デ),山田浩之(北海道大・農),矢部和夫(札幌市立大・デ)

北海道苫小牧市ウトナイ湖の北西岸では、近年高茎湿生草原はウトナイ湖水位の低下に伴い、急速にハンノキやホザキシモツケの群落に占有され、急速に減少している。高茎湿生草原を回復させるために、ウトナイ湖、オタルマップ川と美々川に合計50ヵ所の調査定点を設置して、2010年6月から10月末まで計6回の水質調査を行った。また、群落調査とGPS標高測量を行った。

TWINSPANの結果、ハンノキ林、ハンノキ−ホザキシモツケ群落、ホザキシモツケ群落、高茎湿生草原、フェン(ヨシやスゲの湿原群落)の5群落型に分類された。地表面水位、標高、Mg2+、NO3−N、Ca2+、Cl、T−N、PO43−、Na+で有意差が認められ、標高が高く、地表面水位が低い環境にハンノキ林やホザキシモツケ群落が成立し、標高が低く、地表面水位が高い環境にフェンが成立していた。その中間的な水分環境に高茎湿生草原は成立しており、他の群落に比べて無機イオンが低かった。

北西岸一帯での主要イオンの濃度分布の季節変動を調べた。夏期の大雨後の水位上昇で高茎湿生草原への湖水の流入が可能であったが、イオンの顕著な変動はなく、高茎湿生草原の無機イオンは低濃度を維持していた。NO3−NやT−Nの濃度変化は見られず、高濃度の窒素を含む美々川の水は流入していなかった。オタルマップ川周辺ではClが多く、その水質の影響を受けていた。

ハンノキ−ホザキシモツケ群落で余剰降水量(降雨量‐蒸発散量)とClの負相関が認められ、蒸発濃縮や雨水希釈が濃度変化に作用していることが推察されたが、PO43−とNO3−Nはそれぞれ無機化と植物の吸収の影響が大きいと推察された。

以上のことより、ウトナイ湖水位の堰上げは塩類濃度を上げないで水分条件を改善するため、高茎湿生草原の分布環境を拡大するための有効な方法の一つである。


日本生態学会