| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) C2-18 (Oral presentation)
東南アジアに分布するアリ植物のオオバギ属(トウダイグサ科)は、アリに住処や食物を与え、植食者をアリに追い払わせている。この防衛アリは攻撃性が非常に強く、宿主植物への侵入者は全て排除しようとする。防衛には役立っているアリが、送粉者など有益な訪問者を追い払ってしまうことはないのだろうか。本研究ではオオバギ属と防衛アリ、送粉者の関係を調べた。
アリ植物のオオバギ属は、花序で繁殖する体長1-2ミリのアザミウマ(クダアザミウマ科の未記載属)によって送粉される特殊な送粉様式をもつ。アリが送粉を妨害するのであれば植物がアリを誘引することはないと思われたが、多くのアリ植物オオバギ属が花序に食物体や花外蜜腺を持ち、アリを誘引していた。花序からアリを排除すると花の食害率が高くなったので、アリは花序でも防衛に役に立っていると考えられる。一方、送粉者であるアザミウマの数はアリを排除しても変化しなかったので、アリが送粉者を追い払って送粉を妨害することはないと考えられた。これは、花の外側にある小苞葉により花序上でアリとアザミウマが空間的に分けられているためだと考えられる。さらに、アザミウマとアリを人工的に接触させると、アザミウマが尾部を持ち上げ、アリが逃げる場面がよく見られた。アザミウマが肛門からアリ忌避物質を分泌し、攻撃を避けている可能性がある。
ハナバチなどに送粉されるアリ植物では、アリによる送粉者の追い払いが報告されているが、オオバギ属のアザミウマによる送粉様式では、アリによる送粉者の追い払いが起こりにくく、アリ植物に適しているのかもしれない。オオバギ属ではアリ植物を含むグループでのみアザミウマ媒が見られる。アザミウマ媒を獲得したことで、アリとの密接な共生関係を築くことができたのではないだろうか。