| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) C2-21 (Oral presentation)
植物が作るテルペンは、抗病害虫活性、抗酸化作用、熱耐性、周囲の草の成長を阻害するアレロパシー作用、環境適応、生物間相互作用に役立つことが知られる。中でも、食害を受けた植物の揮発性物質を介した間接防御システムは、様々な植物が潜在的に持つ能力であり、害虫の天敵昆虫(捕食寄生者)を誘引して害虫を退治することで害虫密度抑制の役割を果たしている。従って、テルペンを介した植物の間接防御メカニズムに関する研究は、植物の防御応答や天敵昆虫を介した生態系システムを理解し、環境にやさしい害虫防除技術を開発する上で不可欠である。本研究では、揮発性テルペンであるオシメンの生合成遺伝子を恒常的に発現させた組換えトレニアを用いて、トレニア—ハダニ(植食者)—カブリダニ(捕食性天敵)の三者間相互作用系における組換え植物由来の揮発性物質の影響を解析した。異なる2トレニア品種(サマーウェーブ(SWB):Torenia hybrida、クラウンミックス:T. fournieri)を用いて、ハダニ食害によって誘導される揮発性物質の化学分析を行った結果、SWB種のみが食害に応答して、カブリダニを誘引する揮発性物質を放出した。組換え植物から放出されるオシメンは、単独ではカブリダニを誘引する能力はないものの、ハダニに加害されたSWB種から放出される揮発性物質と混ざることで、誘引効果を促進した。しかも、その促進効果は花卉植物であるトレニアの花の香りが混ざった場合には完全に阻害されるが、花の香り自身にはカブリダニの忌避効果は無いことも見出された。室内と温室レベルで得られた本研究の結果は、組換え植物から放出される揮発性物質の生態系相互作用における複雑な作用を示唆するもので、今後の天敵を介した害虫防除技術を開発に資するものである。