| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) D1-04 (Oral presentation)
Bascompte et al (2003)によって導入されたネスト構造は、多くの送粉群集に当てはまるモデルとして知られている。このモデルでは、植物と訪花者は非対称的な関係にあり、ジェネラリスト(多種と関係を持つ種)はスペシャリスト(少数の種のみと関係を持つ種)ともジェネラリストとも関係を持つが、スペシャリストはジェネラリストとのみ関係を持つ。
ネスト構造が生じるメカニズムとしてしばしば提唱されるのは、ジェネラリスト訪花者は口吻が長く、複雑な花からも採餌する能力を有する一方で、スペシャリスト訪花者は単純な花からしか採餌できないというものである。しかし、現実の送粉系における仮説の検証例は少ない(ただしStang et al 2006)。そもそも、現実の送粉系をモデルに当てはめる際には、観察頻度の偏りが考慮されていないため、単純に観察数の少ない種がスペシャリストとして記載されている可能性すら否定できない。
そこで本研究では以下の問いを設け、立山高山帯の送粉系を対象に検討を行った。どのような種がジェネラリスト(またはスペシャリスト)として記載されるのか?ジェネラリスト訪花者は、一様に多様な植物種を利用しているのか?
その結果、1)観察数の多い種がジェネラリスト、少ない種がスペシャリストとして記載される傾向があった。2)口器の形態は、訪花者がジェネラリストかスペシャリストかの指標にはならなかった。3)ジェネラリストとされた訪花者の中にも、利用植物種を比較的まんべんなく利用するものと、特定の植物種に偏って利用するものがあった。4)ある植物のある訪花者への依存度の高さは、その訪花者のその植物への依存度の高さを意味していなかった。
1)-3)の結果からは、送粉群集をネスト構造で記載することの妥当性に疑問が生じた。一方4)は、訪花者と植物の関係が、ネスト構造モデルとは異なる意味で非対称的であることを示す結果と言える。