| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) D1-10 (Oral presentation)
針葉樹の木部通水経路は辺材の早材が主にその機能を担うが,水ストレスと通水阻害の関係は樹種により様々である.通水阻害進展過程を説明してきたこれまでの報告は切り枝を用いて透水性を調べた実験や仮道管の解剖学的特徴に基づくアプローチがほとんどである.しかし,これらの破壊的手法による報告からでは水ストレスによる幹内の通水阻害の発生およびその増加の一連のプロセスを可視化して説明することができていなかった.そこで本研究では,針葉樹の水ストレスにおける幹内の木部通水阻害進展様式およびその種間差を明らかにするために,スギとクロマツを対象にコンパクトMRIを用いて渇水ストレスにおける主幹の水分布を非破壊的に経時観察した.
スギにおいて,潅水停止により夜明け前の水ポテンシャルが-0.6MPaに達した時,樹皮側2年輪目の早材中央付近において通水阻害が見られたが,-2.0MPaに達するまではその発生箇所は限定的であった.-2.0MPa以下になると水ポテンシャルの低下に伴い,2年輪目の年輪中央付近で通水阻害領域が多数観察され,1年輪目の早材前半においても通水阻害がまとまってみられた.-3.5MPa付近になると大半の木部が通水阻害になったが,年輪界付近では通水阻害が起きていない領域が見られた.また,この時点で潅水を行っても通水阻害からの回復は認められなかった.一方,クロマツにおいて夜明け前の水ポテンシャルが-1.0MPaに達しても水ストレスによる通水阻害はほとんど認められなかった.その後,-2.0 MPa付近になると形成層付近に,-3.0MPa付近になると2年輪目の早材中央付近において通水阻害が見られた.それ以降の通水阻害は1年輪目も2年輪目も早材後半で主に見られ,早材後半がほとんど通水阻害になると早材前半においても見られた.また,この時点で潅水を行っても通水阻害からの回復は認められなかった.