| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-19 (Oral presentation)
つる植物は樹木に比べて地上部に占める葉の割合が3倍程高く、このため個体の水消費と炭素固定のバランスが樹木と異なり、森林内のつる植物密度の違いによって、森林全体の物質循環のバランスが変化することが予想される。また、水利用性がつる植物の成長と分布を制限する大きな要因とされることから、水利用特性を把握することがその生態を理解し、また森林全体の物質循環に与える影響を評価する上で重要であると考えられるが、現状ではつる植物の個体レベルの水利用(蒸散)に関する知見は非常に少ない。本研究では、つる植物の水利用に関する課題解決の第一歩として、九州大学演習林において、サカキカズラ、ハマニンドウ、カギカズラ、テイカカズラの4種を対象に、野外個体の蒸散量を長期間モニターできる樹液流計測法(グラニエ法)の適用を試みた。
まず、染色液の吸水により茎横断面中の通導部の特定を行った。ハマニンドウは木部表面近くのみ(茎横断面の10%程度)で、他3種はほぼ木部の全体(50-70%)を使って通導を行っていた。続いて切断した茎断面から吸水させた状態でセンサーによる測定を行い、センサーの値と実際の吸水量の比較によって、換算式の補正を行った。つる植物の樹液流速は従来のグラニエ換算式による推定より4倍近く高いことがわかり、新たにつる植物用の換算式を決定した。野外のつる植物、広葉樹に対する継続測定の結果、10-12月のつる植物の樹液流速のピークは広葉樹の7倍という大きな値を示した。これらの結果と、九大演習林内で行われた樹木の先行研究の知見から林分蒸散量に対するつる植物の貢献の試算を行った。林分の茎断面積に占めるつる植物の割合0.6%に対し、蒸散量への貢献は8.5%に達していた。この試算の信頼性は現状では低いが、つる植物が林分蒸散量に対して、存在量から予想されるよりも相当大きな貢献を果たすことが示唆された。