| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-20 (Oral presentation)
起伏に富んだ森林では、地形的な生息地分化が一般的に見られ、樹木の種特性もこれに対応して地形傾度に沿って変化することが知られている。しかし先行研究間で傾向は必ずしも一致しない。これは地形傾度上での環境要因の変化のパターンが地域によって異なるためと考えられる。日本は世界の中でも降雨・地殻変動量が大きく、侵食作用の卓越した急峻な山岳地が国土の大部分を占める。しかしこうした地域での樹種分布と種特性に関する地形的傾度の知見は不足している。そこで本研究では、発表者らが明らかにした丹沢山地の306ha集水域での温帯性高木樹種の分布パターンを踏まえ、主要樹種のRGR(12種)および葉特性(23種)と分布を説明する地形変数群(尾根-谷指数、斜面傾斜・方位、土壌深等)との関係を解析した。
まず、RGRの高い種は、SLAが大きく(葉面積が大きく葉重量が小さい)、単位葉面積あたりの窒素量(LNA)が大きく、葉窒素濃度(LNW)が小さい傾向があった。先行研究では、こうしたRGRの大きな種は主に谷に分布する傾向が一般的である。しかし本研究では、RGRと地形変数との有意な関係はなかった。RGRと強い正の相関を持つ葉面積は、緩い斜面・薄い土壌・南向き斜面で大きくなる傾向にあり、LNAも弱いが同じ傾向である。一方、葉重量も同じ方向で大きくなる。そしてSLAは、有意ではないものの、急な斜面・大きな谷の周辺・小さな尾根の周辺で大きい傾向にあった。LNWは大きな谷の周辺で小さい傾向があった。
以上のようにRGRおよび関連する葉特性は地形変数への応答パターンが様々であり、加えて尾根―谷の地形傾度は地形変数群の集約軸としては弱いために、尾根―谷傾度上での樹木の戦略分化が明瞭ではないことが示唆された。