| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-15 (Oral presentation)

海産珪藻に感染するウイルスの性状と宿主動態への影響

*外丸裕司,木村圭(水研セ瀬戸水研)

珪藻は地球上のあらゆる場所に生息し、物質循環に大きな影響を与えている。中でも全海洋環境中における珪藻の生産量は、熱帯雨林のそれに匹敵するといわれている。そのため珪藻に関する生態学的研究は古くから盛んに行われてきた。最近、全ゲノム塩基配列解析を基にした珪藻の新たな生理機能の発見により、物質循環における珪藻の重要性が再認識された。この様な背景から、珪藻の現場挙動に関する研究が再び脚光を浴びている。珪藻の挙動は、基本的には水温・塩分・栄養塩などの物理・化学環境に影響を受けると考えられているが、近年、生物学的因子として、溶藻性の「ウイルス」の存在が注目されている。

我々は「珪藻」と「ウイルス」との関係について、約10年間に亘って室内実験ならびに現場調査を実施してきた。その結果、ウイルスの性状解析結果からは次のことが明らかとなった。1)珪藻ウイルスは、宿主に対する種特異性がきわめて高い。2)潜伏期間は概ね24–48時間程度で、宿主培養をほぼ完全に崩壊させる。3)珪藻ウイルスのゲノムタイプは1本鎖RNA、または1本鎖DNAのいずれかである。また現場調査からは、4)珪藻ウイルスの水柱における急激な増加は、宿主のブルームを反映していた,5)宿主ブルーム期間中は、海底泥中のウイルス現存量も急激に増加した,6)宿主ブルームの崩壊後、水柱のウイルス密度は急減するが、海底泥中のウイルス現存量は長期間保存された,7)宿主個体群はウイルス感受性の異なる、複数の株から構成されていたことが示された。

以上のことから、珪藻とウイルスは現場でも生態学的に密接な関係を構築しているものと推察された。今後、珪藻の挙動に対するウイルスの影響を定量的に評価することにより、両者の現場における関係がより明確になるものと期待される。


日本生態学会