| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-17 (Oral presentation)
コウボウムギは、浸透圧ストレス及び貧栄養環境である海岸砂丘で生育している。また、地下茎を発達させることにより,砂丘の安定化に寄与していることから,現在,コウボウムギを利用した海岸砂地緑化についての研究が行われているが、実生の定着率は高くはない。コウボウムギ実生を緑化に用いる際には、実生を対象地に定着させることが重要であり、そのためには野外実生の定着状況や実生根に内生する微生物の影響を解明することが重要であると考える。本研究は、野外での実生の生残状況を明らかにし、実生の生育促進に関与する内生微生物を探索することを目的とした。
2010年6月から2011年2月における茨城県波崎海岸での当年生実生の野外調査により、夏季は乾燥によって枯死する確率が高いことが明らかとなった。加えて、生残実生の新鮮重及び葉の枚数は同年6月から8月にかけて大幅に増加しており、8月以降は地上部が枯死する傾向が確認されたため、8月の実生の成長は最大であったと推察された。また、同年6月及び8月に採取した生残実生は一般の植物と比べて高濃度に鉄およびリンを含有していることが確認された。一方、生残実生の根部より分離された細菌の中には、鉄を可溶化するシデロフォアを産生する能力やリンを可溶化する能力を有する菌株が確認され、それらが貧栄養環境で生育する実生の生育促進に関与する可能性が示唆された。
以上のことから、コウボウムギ実生を緑化に利用する際には、実生の生育促進効果を示す内生微生物を接種することが、対象地における実生の定着を高めると推察された。
また、現在、内生微生物が有する抗菌活性について検討を行っている。本活性が認められれば、内生微生物が存在することによって、実生の病原菌抵抗性を高める可能性や、実生根に有利に定着できる可能性があると推測される。