| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-05 (Oral presentation)
琵琶湖周辺に残存する最大の内湖である西の湖で、2005-2006年に成魚および仔稚魚の分布調査を行ったところ、西の湖本湖には、外来魚であるオオクチバスやブルーギルの仔稚魚が優占していた一方、その周辺水域にはコイ科仔稚魚が優占していることが分かった。いずれの水域もヨシやマコモなどの抽水植物が生育するが、外来魚仔稚魚が多い前者の湖岸では、水際が崖状に落ち込んでいた。一方、コイ科仔稚魚が卓越する後者の湖岸では、水際がなだらかな形状で、両者で水際の地形に違いがみられた(藤田ほか、2009)。
そのため、崖状の湖岸をなだらかな地形に修復することで、在来のコイ科魚類が繁殖、生育しやすい環境に修復が可能になるという仮説を立てた。その検証のため、科研費(基盤研究B22310147)の助成を受けて、2011年3月、地権者の了解のもと、関係法令の許可を受けたうえで、西の湖の一部の湖岸で地形修復のための工事を実施した。実験地の幅13m、奥行18m、重機で表土をすきとることで、なだらかな傾斜を造成した。
実験地内では、4月下旬にコイ科と思われる成魚が確認され、5月上旬には、コイ科魚類の卵が1回の調査で390個、中旬にはコイ科仔稚魚が25個体採集され、下旬にはタナゴ科稚魚が3尾採集された。前年同時期の実験地周辺での調査では、オオクチバス仔稚魚が優占し、コイ科仔稚魚は全く採集されなかった。
このことから、湖岸の水際形状を修復することで、コイ科魚類の繁殖環境を改善できる可能性が示唆された。ただ工事の影響か、実験地内でヨシの生育が著しく遅れ、現在のコイ科魚類の主な産卵期である4-5月に、繁殖場として機能するべき水ヨシ帯が形成されなかった。その後、ヨシが順調に生育したため、水ヨシが形成される2012年に再度検証を行う必要がある。