| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-16 (Oral presentation)

千葉県房総半島におけるキョン(Muntiacus reevesi)の採食生態 〜胃内容物と消化器官形態の両面から〜

*杉浦 義文 (麻布大) , 高槻 成紀 (麻布大)

房総半島にはニホンジカ(Cervus nippon、以下シカ)が生息しており、生態系へ強い影響を与えている。さらに近年、外来種のキョン(Muntiacus reevesi)が定着した。キョンはシカより小型であり、異なる形での群落への影響が予想される。群落への影響を明らかにするには植物側の情報が必要であるが、同時に草食獣側の情報も重要であると考えられる。反芻獣は採食生態の違いからグレイザー(粗食非選択)とブラウザー(良質選択)、その中間種の三つの採食型に分類される。この採食型は消化器官の形態にも関係し、グレイザーは大きな胃や長い腸管などよく発達した消化器官を持つが、ブラウザーの消化器官は比較的未発達である。第一胃乳頭(ruminal papillae)はグレイザーでは胃内の部位に応じて密度や長さの分化が進み不均一であるが、ブラウザーでは一様に分布する。シカは消化器官の形態も含めてグレイザー的中間種と分類されており、キョンは唾液線の特徴からはブラウザーに分類されているが、胃と腸については不明である。そこでキョンの採食型を食性と消化器官形態の二つの面から調べた。

キョンの胃内容物はシカと比較するとグラミノイドの割合(11.4%)が低く、木本の葉(54.8%)や種子・果実(9.7%)が高かった。第一胃乳頭の分布は一様であり、体重に対する胃の割合はシカに比べると小さかった(1.6%)。体長に対する腸の長さはグレイザーの典型的なものに比べると短かった。

このようにキョンは良質な餌資源を利用し、消化器官はブラウザー的であることが示された。 すでにシカが房総半島の群落に強い影響を与えてきたが、キョンはシカとは異なり常緑広葉樹などに比重を置く採食をするので、全体として採食影響がより万遍ないものになることが懸念される。


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