| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-12 (Oral presentation)
奄美大島の南端、花天湾では、クロマグロの海面生簀養殖が行われている。水深60 mの沿岸域に直径40 mの生簀を固定するため、水面下3 mに直径5.0 cmの側張りロープが吊られているが、そのロープ上には設置後10年で豊かなサンゴ群集が形成されている。そこで、養殖場と周辺サンゴ礁との相互作用を理解しマグロ養殖の持続的な管理とサンゴ礁の保全に貢献するため、ロープ上のサンゴ群集の構造を明らかにした。ロープ上にライントランセクトを設置し、サンゴ組成の調査を行った。また一年を通してサンゴの白化や被食の有無を調べた。周辺海域においても、花天湾の西隣でかつては豊かなサンゴ礁であったが現在はサンゴの覆度が著しく低い管鈍と、花天から大島海峡を隔てた加計呂間島にあり、オニヒトデの駆除など手厚い保護により高い被度でサンゴ群集が見られるデリキョンマ崎にて、ライントランセクトを設置して、サンゴ群集を調べた。
結果、生簀ロープ上には17属60種のサンゴが出現した。一方デリキョンマ崎では20属64種、管鈍では25属59種のサンゴが見られた。ロープ上では、群体数にして約72%を塊状のキクメイシ科が占めた。一方でデリキョンマ崎では枝状のミドリイシ科とハナヤサイサンゴ科が29%と25%を占めた。管鈍では35%がミドリイシ科で、キクメイシ科は26%であった。2009年8月では、管鈍で51%、デリキョンマ崎で20%、ロープ上で11%のサンゴ群体に一部白化が見られた。生簀ロープ上は干満の影響を受けず、高水温の影響を免れ白化の頻度も低く、かつオニヒトデの接近を拒むことが、多様性の高いサンゴ群集が形成される要因と考えられる。このように、マグロ養殖場は期せずしてサンゴに新しい生育基盤を提供していた。このサンゴ群集は、サンゴ移植のドナーとなり、また周辺海域への幼生供給にも貢献している。